上の地図を見ていただくとわかるかと思いますが、特徴から見て分けられる踊りの種類がいくつかあります。
一般に言われているものを地域ごとに大まかに分けると、以下のようになります。
*エーゲ〜西アナトリア:ゼイベク
*中央〜南アナトリア:ハライ
*地中海沿岸南部:カシュック・オユンラル
*黒海沿岸北部:ホロン
*東アナトリア:バー
*トラキア:ホラ
ですが、近隣地域の踊りと緩やかに混ざり合っている部分も多くあり、地図上に正確にキッチリ線引きしてどこがどの踊りをする、と区別することは非常に困難です。このことを踏まえつつ情報を整理し、各踊りの特徴を書き出してみます。いずれの場合も例外はあります。また、各踊りの中に、地域ごとに踊られる様々な踊りがあります。例えば、「ハライ」は大きな踊りの種類区分で、その中にDüz halayやÇorum halayなどなどたくさんの曲と踊りがある、ということです。
一列になって手を繋いだり腕を組んだりして密接して踊るもので、アナトリア中部〜東部で広く踊られる。Alayと呼ぶ地域もあり、同じ名前ではあるが、各地で特徴が色々ある。始まりはゆっくりだが、曲の終盤に従ってスピードが速くなるものが多い。最小で3人の踊り手が居ないとハライとは言えず、メンディル(Mendil:ハンカチ)を振るリーダーの指揮のもと踊られる。メンディルは全員が持っていることもある。
伴奏の基本はダヴルとズルナ。民謡を伴うこともある。
シヴァス、ビトリス、ヴァン、ビンギョル、トゥンジェリ、ディヤルバクル、エラズー、マラティヤ、カフラマンマラシュ、ガジアンテップ、エルズルム、エルジンジャン、マルディン、ムシュ、ヨズガット、チョルム、アダナ、アンカラ、スィイルト、ハタイ、トカット、シャンルウルファ・・・
エーゲ海付近の西トルコで始まったもので、ヒロイズムや勇気、信頼と気高さなどを表象する特別な踊り。男性はSeymen、Efe、Kızanと呼ばれる戦士(というか勇者/英雄というか自警団というか…)を表した衣装を身に着ける。
ゆっくりとしているが力強い動きをする。踊りの性質で Kıyı(海岸の意:比較的速く、動きがある)、Dağ(山の意:もっとも一般的なもので、中間的な速さ)、Ova(低地の意:重く、とてもゆっくりとした動き)の3つにわけられる。トルコの舞踊には珍しく、一人か二人で踊ることが多いが、集団で輪になって踊ることもある。集団で踊る際も、互いに距離をとって(離れて)踊る。
男性だけでなく女性も踊ることがあるが、振りは同じではない。
伴奏はダヴルとズルナ、バーラマが入ることもある。
ただしゼイベクと名の付く踊りのある地域は広範囲にわたっており、多くのバリエーションがある。Çobanlar Zeybek(羊飼いのゼイベクの意)ではカヴァ(リードパイプ)、アンタルヤやシリフケ(メルシン)で踊られるKıvrak Zeybekler(しなやかなゼイベクの意)ではクラリネットが伴奏となる。
総じて、気高く英雄的な踊り。
ゼイべクの中で典型的かつ最もよく踊られているのが、次のベンギ(Bengi)。
アイドゥン、イズミル、ムーラ、デニズリ、ビレジック、エスキシェヒル、キュタフィヤ、チャナッカレ、カスタモヌ、ウシャック、マニサ、バルッケシル、ブルドゥル・・・
マルマラ海南部、バルッケシル周辺でよくみられる踊りで、ゼイベクの一種。戦いの前の式典と、戦いの勝利を描く。男性のみが踊る。
ダヴルとズルナが伴奏となり、音楽に合わせて散歩するようゆっくり歩み出て輪になり、Efe başı(エフェの頭領:リーダー)が指揮官の役割をし、叫び声をあげて指揮を執る。Efe başıが良いというまで踊りは終わらない。途中でセンターの二人のみが同じ動きをし、周囲は見守る。この場合一般的なゼイベクよりもスルスルとスムーズに動く。
似た名前の踊りに「Mengi メンギ」があるが、こちらはエーゲ〜地中海地方に見られる踊りで、民謡が付き男女混合で輪になって踊る、ゆるゆるした踊り。
バルッケシル、マニサ、ムーラ、イズミル(ベルガマ)、ブルサ、チャナッカレ・・・
アルメニア語の「踊り(Parel)」に語源のある、東〜北東アナトリアで一般的な踊り。手をつなぐか、肩や腕を組んで一列(または半円)になって踊る。常に飛び跳ねるようにリズムを取り、その中でしゃがんだり立ったりする、連帯を表す統制の取れた集団舞踊。5/8拍子と9/8拍子を基本として色々なリズムの混じった踊りである。男性が踊ることが多いが、女性が踊るものもある。男女混合で踊ることはない。基本的には集団だが、男性二人が短剣を使って踊るHançer Barıというものもある。
民謡を伴うものと伴わないものがある。
踊り手の一群をエルズルムでは特にダダシュ(Dadaş)と呼び、先頭のリーダー(Barbaşı)は最も踊りの上手な人が務める。メンディル(Mendil:ハンカチ)を持って列の指揮を執る。列中の人々はKoltuk(肘かけ椅子の意)、最後の人はPoççik(尾の意)と呼ばれ、やはりメンディルを持っている。ダダシュ自体には「エルズルムの人」の意もあり、地元の連帯感を強く感じる。
伴奏はダヴルとズルナ。
エルズルム、カルス、アール、アルトヴィン、ギュムシュハーネ、バイブルト、エルジンジャン・・・
黒海沿岸地方の踊り。手をつなぎ一列になって踊る、かなり速いテンポ(7/16拍子)の踊り。最初から最後まで飛び跳ねるようにステップを踏み続ける。火や水など自然の性質、山、海や天気などの不安定さ、イワシの跳ねる様子などが表現される。小さく短いモチーフを繰り返すことによりリズムを取り、スピードを出す。この速いリズムをSıikと呼ぶ。3〜5人が平均的な人数だが、100〜150人が一緒に踊ったという記録もある。列のリーダーをÇavuş(軍曹の意)と呼ぶ。男性二人でナイフを使って踊るBıçak Horonuというものもある。
ホロンには3つのセクションがあり、Düz Horon(ゆっくり重く) → Yenilik(腕を上げ肩が揺れる) → Sert(テンポが非常に早い) と段々スピードアップしていく(踊り続ける場合はSertからDüz Horonに戻り、続ける)。セクションの移動や腕の動作などはリーダーからの掛け声で行う。
男女混合でも、男性のみでも踊られるが、女性のみのホロンもあり、その場合民謡を歌いながらタンバリン(Tef)やコップのような打楽器を鳴らしながら踊ることが多い。
伴奏にはダヴル、ズルナ(またはシプシSipsi)のほかに、ケメンチェ(Kemençe)というバイオリン様の甲高い音の出る弦楽器を使う。
トラブゾン、サムスン、アルトヴィン、オルドゥ、リゼ・・・
*踊り手さんによると、全員でステップを揃えるのが難しく、コンテストで上位を取るのは難しいそうですが、男性がめちゃくちゃ格好よく、管理人が最も好きな踊り(*^-^*)
トラキア(トルコのヨーロッパ側の地域)で一般的にみられる踊りで、マルマラ海の東〜南部でも踊られる。バーやハライのように、手や腕をとるが、そこまで密接してはおらず、小指同士をつなぐこともある。輪になったり列になったりとフォーメーションの変化が激しく、急にひとりひとりにばらけたりもする。かなりリズミカルな踊りで、曲にもよるが、ステップが不規則なこともある。
伴奏としてダヴルとズルナ2つずつ(合計4つ)で踊ることが多い。
エディルネ、クルックラーレリ、テキルダー、チャナッカレ・・・
ホラ同様、トラキアからマルマラ海の東〜南東部に多く、主に婚礼や祭りの際に踊られる。2人(2列)が相対し、同じ動作をするような踊りで、「カルシュラマ」は「対峙する、あいさつする」の意。テンポやスタイルは地域によって異なる。一部のカルシュラマではすべての踊り手が手にメンディル(ハンカチ)を持つ
エディルネ、テキルダー、クルックラーレリ、イズミット、アダパザル、チャナッカレ、ブルサ、ビレジック・・・
アナトリア中部〜南部の地中海沿岸で踊られる。木のスプーン(kaşık)を片手に2本ずつ持ち、カスタネットのように打ち鳴らしてリズムを取り踊る。腹や肩を動かす女性的なしなやかな動作が含まれ、スプーンを使うことから女性の家庭内での遊びを模したものと思われがちだが、男女関係における男性の積極的な役割も描いており、男女いずれも踊る。
エーゲ海地方には同様にスプーンを持って踊るゼイベク(Kaşıklı zeybek)があるが、こちらには女性的な動きは含まれない。
ゼイベク以外では不規則なリズムはあまりなく、2/4拍子か4/4拍子のリズムで、民謡を伴うことが多い。
スプーンを持って踊る踊り全体を「カシュックル・オユンラル」(スプーンと一緒の踊り:複数形)「カシュックル・オユン」(単数形)という場合もある。
メルシン(シリフケ)、アンタルヤ、クルシェヒル、コンヤ、エスキシェヒル、アフィヨン、キュタフィヤ、ビレジック、ボル、ブルサ・・・
トルコの西〜南部で踊られており、手をたたいたり指を慣らしたりしながら、リズムに合わせてステップを踏む。手を取ったりはせず、個別に軽くステップを踏みながらフォーメーションを変えていく。
アンタルヤ、ウスパルタ、アランヤ、ブルドゥル・・・
古代ギリシャにあった踊りが東ローマ帝国時代に中近東文化と混合して生まれた踊りと考えられているもの。ギリシャ人やロマ(ジプシー)によって広まった踊りで、いわゆる「ベリーダンス」に似ているが、よりゆったりとしたもの。
エスキシェヒル、ブルサ、アダナ、バルッケシル・・・
剣と盾を持って踊るもので、ブルサとその周辺で踊られる。踊るのは男性のみで、オスマン帝国時代の戦いを模している。伴奏はつかず、剣と盾を合わせる激しい音のみで踊られる。
ブルサ、ベルガマ(イズミル)、ボル・・・
トルコ北東部、コーカサス(カフカス)地方の踊り。ダイナミックで速い動きが特徴的で、男性のソロまたは男女ペアで踊られる。ソロの場合はつま先立ちをしたり、非常に早く足を組み替えるステップを踏んだりと、アクロバティックな動きをする。
合唱や独唱を伴う。
昔は踊られる地方は限られており、そこでは「アゼリ Azeri」「バル Bar」と呼んでいたが、優雅で見応えのあることから各地のダンスチームが踊るようになり、現在では比較的知名度のある踊り。
カルス、アルダハン、ウードゥル・・・
特徴から見た踊りの分類以外にも、踊り手の種類で分けることも出来ます。
100 Türk Halk Oyunuには 上記の舞踊のうち、
・男性だけが踊る踊り が 60%
・女性だけが踊る踊り が 30%
・男女混合 が 10%
と示されています。
踊り手の人数と性別で区分すると以下のようになります。
・一人で踊る
女性一人 →Estireyim mi (Bolu), Yoğurt (Eskişehir)...
男性一人 →Zeybek (Aydın), Misket (Ankara)...
・ペアで踊る
女性二人 →Ördek (Bolu), Mandalar (Kırklareli)...
男性二人 →Hançer Barı (Erzurum), Kırka Zeybeği (Eskişehir)...
・集団で踊る ハライ、ホロン類は全部こちら
女性グループ →Güvercin (Erzurum), Çömüdüm (Kütahya)...
男性グループ →Coşkun Çoruh (Artvin), Koçaklama (Ağrı)...
男女混合 →Delilo (Elazığ), Dokuzlu (Gaziantep)...
「男女ペア」は集団(男女混合)の場合の一部として相対することはありますが、最初から最後まで二人きりというのは伝統的にはほとんど無いと思われます。ですが、最近では Nazeyleme(Kafkas) など、元々集団のうちから二人が出てきて踊る(それ以外は周囲で見守る)タイプのものを、そこだけ取り出して踊られることがあります。
そのほか、踊りの名称で区分する場合(地名、色名、数、仕事や職業名・・・)や、何を模倣しているのか(自然、日常生活、男女関係、動物、戦争・・・)で分類することもあります。
*このセクションで使用した踊りの様子の絵は全てトルコ共和国発行の切手(管理人蔵)によるものです。