◆カフカス(レズギンカ) Kafkas(Lezginka) / バル(バー) Bar / ハライ Halay
トルコにおけるカフカス・ダンスの中心地。カフカスは以前は「アゼリ(=Azerbaycan oyunları)」などとも呼ばれていた。
この踊りは他のコーカサス諸国でも踊られており、男女ともにアクロバティックな動きが特徴で、甲立ちや膝でのターン、大跳躍など、高い身体技術を要する。女性は爪先立ちで、雌鹿のようになめらかに立ち振る舞う。男性は常に女性をたて、鷹のように力強く踊る。
踊りのテーマは、闘争、平和、騎士、荒海、ワイン、幻想などが用いられ、高潔なコーカサスの民の生き様を表している。
◇代表的な踊り
【Kafkas / Azeri】
Kentvari / Çay / Lezginka / Tamara / Seher / Ayşat / Darikiran / Şeyh Şamil / Terekeme / kız kıskancı(小話仕立て)
→最も有名なのは「ナゼイレメ Naz Eyleme/Nazeleme」。ナゼイレメは南コーカサス地方の踊りで、男女が対になって踊る。女性を振り向かせようと、男性がさまざまなステップで気を引くものの、わがままな女性の心を掴むのは容易ではない、という内容のもの。原題は「Nazしないで」という意味で、元々はアゼリ(アゼルバイジャン)の民謡「Naz eyleme」です。「Naz」とは、相手の気を引こうとしてぶりっ子(死語でしょうか…?)すること。子供がもじもじしながら大人の気を引こうとするのもこう呼びます。タイトルからも、男性の悲痛な想いが伝わります(笑)。こちらの説明はトルコ民族舞踊家の小谷野愛美さんに教えていただきました。
【BarとHalay】
Düzbar / Agır Bar / Bar Sekmesi / Tersbar / Tikbar / Tek Tamzara / Çift Tamzara / Sarhosbari / Tavukbari / Hosbilezik / Zencirli Köroglu / Ardahan Barı / Temüraga / Dello / Koçeri / Gölenin Dü zü / Nare / Lorke / Gaçke Barı
→カフカス以外では主にバル(バー)が踊られているが、異なる出自の人々が異なる時期にこの地域に定住したため、トルクメン、アゼリ(アゼルバイジャン)、東アナトリアの先住民など様々な要素のある踊りが混在している。
◆ダヴル Davul / ズルナ Zurna / ハーモニカ Armonika / アコーディオン Akordeon
◇その他:マンドリンとフルートなど、様々な楽器を使用する。男性のコーラスが入る場合もある。
アナトリア地方の民族舞踊がリズムを大切にするのに対し、コーカサス地方ではリズムと共に旋律に重きが置かれている。
◆カフカスを踊る際の衣装は他地域のものと違い、非常に優雅な雰囲気のもの。同様の衣装はアゼルバイジャン、ジョージア、アルメニアなど、同じコーカサス地方の国々にもある(コーカサス地方でほぼ共通)。
カルス自体にはカフカスではない民族衣装(ローカル衣装)も存在し、踊りは異なる。カフカスの衣装でローカルのダンスは踊らないし、逆もまた同じである。
【Kafkas カフカス】
◆女性は 髪の毛を長く1本か2本、または40本(=たくさんの意)の三つ編みにする(ダンスの場合はつけ毛を使用)。Dinge(Araşkin)またはFesやTaç(冠)を金銀で飾り、白い薄い布を垂らす。バンドカラーの長袖白シャツを着、主にベルベットまたはウール(Çuha)で出来た上着(半袖または長袖で飾りのあるもの)を着る。かかとまでの長さのギャザースカートまたは長袖のEntariまたは、Kaftan(ドレス)を着る。銀で出来た(または革で裏打ちした)Gümüş kemerを締める。右側にレースかリネンのMendil(ハンカチ)を着け(踊りで使わない場合は省く)、低いヒール(またはヒール無し)の柔らかい革靴Pisipisiを履く。
・・・というのが基本的な姿だと昔の写真資料などでは描写されていましたが、現在はダンスチームによってそれぞれ華やかで優美な宮廷ドレス風の衣装になっています。(個人的には肘手前までの長いスリットの入ったベルスリーブの上着が好み)
◆男性は Kalpak/Papakと呼ばれる羊毛で出来た帽子をかぶる。上広がりの円筒形のものからポンポンのようなヘアリーなもの(南コーカサスからカルスに来て定住したトルクメン系の人々はこちらを使用)まで種類は様々。色は主に黒。歳が若ければ白い場合もある。
バンドカラーまたは衿なしの白いシャツを着用。その上から黒または濃色の厚手の生地で作られた衿なし(Vネック)のArkalık/Çuha/Kaftan/Üstlük(各地で呼び名が異なるが、いわゆる上着)を着る。裾は膝まであり、胸にMermilik(またはVezinlik)と呼ばれる弾薬(に似せた飾り)を付ける。伝統的にはボタンが無くベルトで閉じるようになっているが、今はボタンがあるものもある。Pelerin (Yele-Atkı)と呼ばれるケープを付ける場合もある。
上着と同じ素材のŞalvar(またはPantolon)をはき、上から膝より長い革製の薄くやわらかなCiveki(ブーツ:色は黒)を履く。Sallamalarと呼ばれる細長い飾りの付いたSallama Kemer(ベルト)をしめ、Hançer(短剣)を左側に下げる。弾丸や武器を身に着けていることから、軍の上層部の者であることを表している。
・・・男性の衣装はほぼこんな感じで時代を経てもあまり変わりませんが、舞台衣装としては男性も上着の袖がかなり長かったりするものもあります(優雅!)。
【Mahalli ローカル】
◆女性は 布で作られた黒いパーツに赤い頭飾り布(Vala:薄い織物布)を縫い付けた、DingeまたはKofikと呼ばれる頭装飾を着ける(Kofikは木製の輪のようなもので、その上にFesなどをつけ、全体を飾る)。花嫁の場合は髪を長く見せるためにビーズやボタンを糸に付けたSaç bağıを後ろに着ける。シャツ(Gömlek/Köynek)を着てからÜç etek(またはEntari)を着る。Göğüslük(Döşlük:胸飾り)が特徴的で、若い娘や花嫁はビーズ刺繍、年配者はベルベット布で作った飾り(絨毯やキリムなどからとったモチーフ)を前面に付ける。装飾されたPeştemal(タオル/Önlük:エプロンとする)を前面に垂らし、腰布(石染めの羊毛Farmaçが使われる)を巻く。更に上からBel bağıで締める。銀製のKurşak Kemerを使うこともある。アームカバー(Kolçaklar)を両腕に着け、Mendilを腰に下げる。Üç etekの両前裾はたくし上げて交差させ、Bel bağıでおさえる。
下にはŞalvarをはき、裾はTaş kınaで染めた糸で編んだウールの靴下に入れる。革サンダルÇarıkを履く。Yemeniと靴ひもを使ってÇarıkに似せて見せることもある。
◆男性は KülahまたはFesの上にAhmediyeという黄色ベースで模様のある布を巻く。ぶら下がる部分はハンカチ代わりにも使われ、実用的。北部ではヤギのモヘア(keçi tiftiği)も使われる。バンドカラーのシャツ(Gömlek/Köynek)に抱き合わせのYelek(ベスト)を着、ウール地のCepken(Eğindirik:ジャケット)を季節により羽織る。ジャケットと同じ生地から出来たŞalvarをはき、ウール織で作った腰布(Kurşak)を巻く。これは元々短剣や銃を運ぶためのもの。懐中時計と銀の長鎖をアクセサリーとする。Mendilを腰に着け、踊るときは手に持つ。モチーフで飾られたウールの手編み靴下を履いてから、Çarıkを履く。しかし男女共に「民俗衣装」では革サンダルを履くとしている地域でも、舞踊として踊る際にはYemeniなど軽い革靴に変えるところも多い。